最近ヤフオクをちょくちょく確認するようになったが、その最初のきっかけは偶然江戸後期のモノと思われる御所人形をモニターの中に見つけた事から始まった。薄汚れて割れも入ったひどい状態の人形だったけれど、ぼおっと遠くを見つめる表情についつい引き込まれて、この人形を絶対落とすと心に決めた。さいわい御所人形の目利きが出来る人がほぼいないご時世なのでほとんど競る事なく落札できた。
ずさんなダンボールにわしゃっと梱包されて我が家にやって来た彼は、本当に江戸期の不思議な空気を纏った品格の高い可愛い人形だった。箱を開けたとたんに江戸時代が一瞬部屋に充満したような心地。烏帽子を付けてぺたりと座り手元で亀を遊んでいる姿が実に雅な雰囲気だ。顔をよく見ると頬紅が薄くさしてある。これはなかなか珍しい作例じゃないか。記憶の中では宝鏡寺の「千代丸様」という、ちょっと阿呆っぽいかわいさが魅力の人形も頬紅がさしてあったはずだったなと思い、古い本をひもといた。うーん、見れば見る程似ている。口は千代丸様が笑って歯を見せているのに対しヤフオク君はへの字にむすんでいると違いはあるけれど開眼の仕方や眉の引き方、頬紅、顔の雰囲気どれをとっても同一の作者としか思えない。御所人形には作者の名前は入らない。だからこそこういう共通性の発見には無上の喜びがある。僕はこのヤフオク君を宝鏡寺の千代丸様の生き別れた弟と思うことにし、亀千代と名付けた。いつか亀千代を京都へ連れて行って千代丸様と対面させてあげたい。そして、そのときの為に傷ついた亀千代を出来る限り古雅に修復するのが僕の使命のように感じた。
